『指の銀行』
指をきる。
鋭利な刃物で切り落とすのか、或いはガーデニング用の剪定鋏で断ち切るのか、それとも錆つき刃こぼれした鋸を無理強いして指を挽きちぎるのか。手段はどうあれ、ひとつずつ切り離す。そしてさらに細切れにする。小一時間もあれば、一皿に山盛りの指の標本が積みあがる。
続いて、その断片をこれまたひとつずつ市販の糸で丹念に縫い合わせていく。その都度できあがったそれは収納ケースへ並べ、押入れの奥に保管する。
今日は天気がよいので押入れからそれを取り出し、竹で編んだザルの上に天日干しをする。太陽からの強烈な日差しを浴びると、それはみるみるうちに皺くちゃになり、今や干からびた皮膚の張力のせいで指先は天へ向かって反り返っている。
夜、その縮みあがった指を水の中で一晩寝かす。そして翌朝、新しい鉢へひとつずつ植え込んでいく。
数日後、その鉢を覗いてみると、縫い合わされた指と指とのわずかな間から乳白色の小さな突起が芽吹いていた。なおも観察を続ける。やがてそれは手に成長し、そして突然、前屈みの姿勢でもって、恐る恐る土から這い出ると、のっそりと鈍重に鉢をのり越え、向こうの茂みの中へ掻き消えていってしまった。