『解体シン書』


 獣のような、人のような「それ」が住んでいる。

  体の真ん中にある天板から下には足がにょっきりとのびている。ないのもある。その足は膝の下までのびた体毛に覆われ、手入れをされた様子はない。一方、天板から上に胴体はない。すぐに頭部らしきものになる。目はいつのまにか退化したせいで、はっきりとは確認できない。それなのに、どうしたわけか鼻だけは居丈高にその存在を主張している。

  一見して、「それ」は臆病でしごくおとなしい。しかし、一旦腹をすかせば奇声を発し、なにをしでかすのか油断ならない。
とにかく、今すぐにでも捕まえて、追っ払うことがまずもって肝要である。だが、そもそもどうやて・・・・?

  ところで、先程から私の背中に触れるものがある。ふと振り返ると、目の前には異様に肥大した「それ」の鼻先が迫っていた。見ると次第に大きくなり、いまや周囲を圧する勢いで、巨大な鼻だけが部屋の中へ鎮座していた。

  そして、困ったことに、どこからか耳鳴りのように聞こえてくる声が、「よぅ、兄弟!」と執拗に呼びかけてくるのであった。