『ふくら芽』


 どうやら私はモンステラに取り憑かれてしまったようだ。赤い背表紙のスケッチブックを片手にぶら下げ、植物園に出かけて行っては、何時間でもモンステラを観察している。

 モンステラは熱帯地方原産の植物で、深い切れ込みの入った大きな葉が特徴である。茎の根元付近が次第に膨らみ、そこから枝分かれしながら新しい幼葉が成長する。ただ、冬になると東京の気候が甚だ堪えるせいか、パッタリと成長は止み、身動き一つしなくなる。このモンステラの不思議な生態に取り憑かれ、私はいつのまにかそれに倣うようになった。

 今では、部屋の床一面に土を敷き詰め、冬の寒さにも負けないよう暖房設備を完備して、モンステラにとって最適の生育環境を整えた。

 ところが、土からの湿気と臭気だけはどうにも我慢ならず、急いで窓を開け放つ。

 するとどうした訳か、目の前にはモンステラの巨大な葉の重なりが視界を遮った。よく見ると、葉同士のわずかな隙間からは件の植物園の柵がうかがえる。

 そして、その柵の向こうから、赤い背表紙のスケッチブックをぶら下げた男がやって来て、まるでアカの他人でも眺めるように、ジッとこちらの様子を観察してくるのだった。

 



野津 晋也